[イベントレポート]第 53 回公開講座 開催【報告】
2022年3月16日(水)、29日(火)、31日(木)に第 53 回大阪大学公開講座を開催しました。当日の様子をご報告します。
大阪大学公開講座は、数ある国立大学の中ではじめて総合的な公開講座として開催されました。長い歴史の中で、つねに社会や人間を考えた「実学」の精神で講義を展開し、今年で53回目となります。
今年度は、アートエリアB1での対面方式と、オンライン配信とのハイブリッドで実施されました。第1回講座「ナチス・ドイツと国鉄―『普通の人びと』の戦争」(法学研究科・鴋澤歩教授)
2022年3月16日は法学研究科の鴋澤歩教授が
「ナチス・ドイツと国鉄―『普通の人びと』の戦争」と題して講義を行い、
対面で19人・オンラインで210人が参加しました。
はじめに21世紀懐徳堂学主の三成賢次理事・副学長から開会のあいさつがありました。
三成理事は、これからの公開講座の展望について、研究者が一方的にやってきて講義をする場ではなく、
講座に参加する様々な経験知を有した専門外の人々との対話により知を広げていく場となり、
社会と学術の共創の一環となることを目指していくと述べられました。
講義では、ナチスとドイツの国鉄との関係について講義がありました。
鴋澤教授は、近現代ドイツの経済史・経営史をご専門としています。
まず、鴋澤教授がなぜ鉄道で戦争を考えるという研究手法を取られているのかということについてお話があり、
前半は今回のテーマの一つであるナチス・ドイツに関するよくある誤解と、
それらがなぜ誤解と言えるのかについてご説明いただきました。
後半は、ナチス・ドイツと国鉄の関わりについて、多くの写真を用い多様な視点からお話されました。
また、ナチス期の経済史を研究する研究者としての社会的な責任と使命についても熱いお話があり、
会場は熱気に包まれました。
質疑応答の時間には、
「戦時中のドイツ国鉄と日本の鉄道省の比較によりどのようなことが考えられるでしょうか。」
「ナチス期のドイツでは物資輸送に、鉄道と共に河川・運河輸送も活用されたのでしょうか。」
など、多くの質問が寄せられました。
また、アンケートには
「戦争を鉄道という「モノサシ」で計ることの面白さが実感できた」
「先生の学問への誠実さのようなものが伝わり、かっこいいと思った」
「普通の人の戦争への関わりが胸に染みました」
などの声が並び、参加者のテーマへの高い関心とこれからの生活に今日のお話を生かしていきたいという熱意が感じられました。
第2回「『聴こえ』と健康な未来社会」(医学系研究科・日比野浩教授)
第2回は、3月29日(火)医学系研究科の日比野浩教授が「『聴こえ』と健康な未来社会」と題して講義を行い、対面で10人、オンラインで211人が参加しました。
冒頭、佐藤宏介総長補佐が「緒方洪庵の適塾、大阪の商人たちが興した懐徳堂が、大阪大学の精神的源流になっています。
その発祥の地である中之島で公開講座(当初は「解放講座」)が1968年に開校し、
今回で第53回目を迎えることになりました」とあいさつしました。
講義で日比野教授は、難聴が人口の1割の人がかかっている病気であり、
高齢化とともに進む一方、なかなか治らないことも指摘しました。
認知症やうつ病などにつながる恐れもあるそうです。動物などが音を聴く能力の違いにも言及し、
音の幅が
▽ヒトは20~2万Hz
▽鳥は700~8000Hz
▽イルカは数十~15万Hzというような差があります。
これらの音を実際に聴かせてくださったり、人間の耳の模型を会場で回したり、
木琴を奏でるなど、実践的な演出でも参加者をひきつけました。現在の医療で難聴の治療が難しい理由の一つとして、患者さまから詳しい診断のための組織を採取できないことが挙げられるということです。
それでも、さまざまな研究努力の末に、いずれは難聴予防のシステムの開発や、難聴から派生する認知症、
全身疾患への予防などの技術も期待できるそうです。
質疑応答では
「人工内耳や補聴器の仕組みは?」
「絶対音感をいうものを学術的に立証できるのか」といった質問が寄せられました。
「大きな音を聴くことで耳に障害が起こりますか」
「日常生活で気を付けることは?」といった難聴への予防策を尋ねる質問に対して、
日比野教授は「球場観戦やロックコンサートなどでも、難聴になるおそれがある。
大きなボリュームの音には気をつけてほしい」とアドバイスしていました。
参加者からのアンケートでは
「耳から脳へ音がどう伝わっているのか、よくわかった」
「音楽も講演も、ライブで聴くのが一番です」といった声が寄せられました。第3回「地域に新たな価値をつくるまちづくり」(工学研究科・加賀有津子教授)
第3回は、3月31日(木)に工学研究科の加賀有津子教授が「地域に新たな価値をつくるまちづくり」と題して講義し、対面で 8人、オンラインで199名人が参加しました。
まず佐藤宏介総長補佐が「21世紀懐徳堂は、1724年に開設された懐徳堂の精神を受けついで
2008年、大阪大学内で活動を始めました」とあいさつしたのち、加賀教授が講義を行いました。
古い建物をリノベーションした大阪の昭和町、福島などの事例を写真で示しながら、町の魅力発信や新たな価値を創造する取り組みを示しました。
さらに具体的に、中津地域のクリエイティブ活動や人材育成を取り上げ、
「おしゃれでレトロな地域で、地域住民が熱心に街の発信に取り組み、
さまざまな人々が中津に流入している」成功例も紹介しました。
加賀教授が作成した「中津地域マップ」を会場参加者に配布して、喜ばれました。
さらに「エイジングシティとしての健康街作り」の視点も取り上げ、
高齢者と大学生が異世代交流している事例の利点とともに問題点も示しました。
続いての質疑応答では、
「民間と産業との接点をどうもったらいいか」
「うめきた2期の開発をどう評価するか」などの質問が届けられ、
「住民と外部とは、どのようにつながればいいのか?摩擦などはどうしたらいいか」との問いに、
加賀教授は「まとめ役のキーパースンが活躍すれば、両者の関係はうまく進む」などと助言しました。
参加者アンケートでは
「旧住民と新住民、そして世代間のコミュニケーションが大切なことを再認識できました」
「街づくりに決まった “形”はないと感じました」
などの感想が寄せられました。
・3月16日(水)「ナチス・ドイツと国鉄―「普通の人びと」の戦争」
講師:鴋澤 歩 経済学研究科 教授(経済史・経営史)
・3月29日(火)「「聴こえ」と健康な未来社会」
講師:日比野 浩 医学系研究科 教授(薬理学講座)
・3月31日(木)「地域に新たな価値をつくるまちづくり」
講師:加賀有津子 工学研究科 教授(ビジネスエンジニアリング専攻)
主催:大阪大学
共催:アートエリアB1
企画:大阪大学21世紀懐徳堂
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