[イベントレポート]第51回大阪大学公開講座 たかが紙、されど紙 ~未来の紙が拓く新しい世界~

[イベントレポート]第51回大阪大学公開講座 たかが紙、されど紙 ~未来の紙が拓く新しい世界~

2019年11月25日(月)に開催した今年度の大阪大学公開講座、第7回「たかが紙、されど紙~未来の紙が拓く新しい世界~」の開講レポートです。21世紀懐徳堂学生スタッフ、安藤が執筆しました。

 数ある国立大学の中で、はじめて総合的な公開講座を開いた大阪大学。つねに社会や人間を考えた「実学」の精神で講義を展開し、今年で51回目を迎えた。令和元年度の大阪大学公開講座は、「次世代研究者と拓く共創社会」を共通テーマに、全8回の講義を行います。

 

 「紙」は日常生活のあらゆるところで使われている。例えば、包装紙、ダンボール、ティッシュペーパーなどだ。紙は私たちの生活に欠かせないものとなっている。しかし、その一方でペーパーレス化が進み、紙の需要は減り続けている。これから紙は私たちにとって重要な素材ではなくなってしまうのだろうか?

  そんなことはないと紙の重要性と有用性を強調するのが、産業科学研究所・准教授の古賀大尚先生だ。先生は素材としての紙の特性に注目し、電子デバイスに応用可能な紙の発明に取り組んでいる。今回の公開講座では、⑴紙の歴史、⑵紙の未来、⑶紙の最前線に分けて、自身の研究を説明していた。

 (写真)産業科学研究所・准教授 古賀大尚先生

 (写真)産業科学研究所・准教授 古賀大尚先生

 

 まず⑴紙の歴史について。紙の起源が5000年前のエジプトで作られた「パピルス」という材料に遡ることができ、何らかの記録を残すための書写材料として用いられていたという。そこから、2000年前に中国で製紙法が生み出され、世界中に伝播していった。

古賀先生が強調していたのは、それぞれの文化ごとに紙の材質が異なっていることだった。例えば、日本では墨に適した和紙が作られた。ヨーロッパでは印刷に適する木材パルプを使って紙を作るようになった。紙は情報記録媒体として長い歴史を持っており、文化や生活に影響を受けつつ多様に発展しているのだということがわかった。

 (写真)様々な文化で活用されてきた紙のさらなる可能性について語る古賀先生

 (写真)様々な文化で活用されてきた紙のさらなる可能性について語る古賀先生

 

 次に⑵紙の未来についてのお話しが続く。古賀先生は、現在注目される紙の材料である「ナノセルロース」がどのようなものなのか、またそれを実際に製品化した具体例について紹介していた。

 「ナノセルロース」は樹木から取られる微細なナノファイバー材料であり、軽く、強く、熱に強く、様々な分野で応用が可能だという。また何より、樹木に由来するため、計画的に利用することで環境負荷の少ない持続可能な素材であることがウリである。

 「ナノセルロース」は、既に製品化されており、スピーカーやオムツ、シューズ、ラケットといった製品から、化粧品、食品添加物としても利用されている。さらに驚くべき事例は、「ナノセルロース」を金属の代替として用いた自動車の開発が進んでおり、モーターショーにも出展されたということだ。紙で車が作るという面白い試みがあるのだ。

 

 最後に⑶紙の最前線が古賀先生の最先端の研究を垣間見る機会となった。ここで改めて紙を素材として用いる利点が、環境問題と絡めて強調された。ヨーロッパを始め世界中で使い捨てプラスチックや電子デバイスの廃棄による環境への影響が問題視されている。石油由来のプラスチック素材からの転換が求められている。だからこそ、自然材料由来の紙が重要なのだという。

 そこで古賀先生は紙の技術革新に向けて、今までの紙にはなかった新しい機能を持った紙の開発と応用に取り組んでいるという。環境負荷の大きいプラスチック素材に替わる紙の素材が応用され、高機能かつ環境に優しい電子デバイスが可能になるような未来を描いていた。

 (写真)環境問題における紙デバイスの重要性について熱弁をふるう古賀先生

 (写真)環境問題における紙デバイスの重要性について熱弁をふるう古賀先生

 

 古賀先生の先端の研究については多岐に渡るので、ここでは詳述できないが、先生の発明した紙の機能が現在の電子デバイスの部品と比べても遜色ないこと、紙の柔軟で軽量な性質などは既存の部品よりはるかに優れていることが話の中心となった。何より、紙は分解される点も既存の電子デバイスにはない点だ。

 

 今回の公開講座を通して、紙という伝統的な素材が改良され、現在の電子デバイスに利用できるような機能を持ちうることがわかった。紙の素材がすでに様々な製品として実用化されていること驚いたが、その機能性について話を伺って、その理由についても納得した。環境負荷を軽減しつつ、現代の科学技術の成果を活かす上でも、紙は魅力と可能性を秘めた素材だ。

 

                   (文責:21世紀懐徳堂学生スタッフ 安藤 歴)

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