[イベントレポート]大阪大学社学共創連続セミナー 第三回「地域なくして 大学なし」
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2019年1月20日に開催された、大阪大学社学共創連続セミナー 第三回「地域なくして 大学なし」の開催レポートです。21世紀懐徳堂の学生スタッフ、浅川が執筆しました。
毎回、多くの参加者で賑わう大阪大学社学共創連続セミナー。第1回「防災のある街へ 大阪府北部地震をふまえた北摂地域防災」、第2回「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」に続き、3回目の今回は「地域なくして、大学なし - 産官地学連携による共創イノベーション - 」と題して、 立命館アジア太平洋大学(APU)初代学長の坂本和一先生に基調講演をいただきました。坂本先生は早くから産官地学連携を掲げ、草津市と別府市における新キャンパス、新大学設立に尽力されてきました。ただ、そこに至るまでの道は並大抵のものではなかったようです。
まず先に着手されたのが、立命館大学びわこ・くさつキャンパス(BKC)の創設です。当時の立命館大学は、すべての学生を衣笠キャンパスで受け入れていたため、授業教室は満員、大学構内も常に人で一杯という問題を抱えていました。そこで理工系学部の研究施設、並びにその学生(なんとその数5000人!)を滋賀県は草津の地に移すことが決定しました。しかし、受け入れ側の地域住民の方々の不安や心配も少なくなかったそうです。その状況を打開したのは、立命館大学の学生たちでした。学生たちは、「草津ってどんな場所なんだろう」という素朴な疑問から、衣笠キャンパスからBKCまでの約27kmを歩いて移動するという企画を立ち上げ、深夜から翌朝にかけて実際に踏破しました。その心意気に地域の人たちも心を打たれ、歩き疲れた学生たちに食事を振舞ってくださったそうです。その後、このイベントは10年以上続き、多い時では2000人を超える参加者が集まる立命館大学と草津の地域住民の連携を象徴する企画となりました。
次に着手されたのが、初代学長も務められた立命館大学アジア太平洋大学の創立です。これについても、BKC創設の頃より話はあったようですが、予算などの制約から実現に漕ぎつけるまでには至っていなかったそうです。そこで浮上してきたのが、大分県からの大学誘致の話でした。APUは「迎え入れる国際化」を理念として掲げ、留学などに代表される「送り出す国際化」からの脱却・転換を目指した当時は非常に斬新な大学でした。特に、90地域から3000人もの留学生を受け入れ、3000人の日本人学生と同居させるというのは前例のない大きな挑戦でした。そのため、APUでは多文化週間(Multi-Cultural Week)と題して、各国の文化的な行事を学生に体感してもらうだけでなく、それを出し物として一般向けに発表することで、留学生と日本人学生、そして地域住民の間の交流や連携に尽力してきました。さらに、地域の住民に対して、アルバイトなどでの留学生の積極的な活用を促すことで、自然と留学生が地域に溶け込める環境づくりに力を入れてきたとのことでした。
「地域なくして、大学なし」
常日頃から、このことを強調されていらっしゃる坂本先生が、大学と地域の連携をどう考え、どう行動してきたか。その軌跡が明快に提示される、大変意義深いお話でした。基調講演も終わり、セミナーはパネルディスカッションに進みました。
今回のパネルディスカッションは「箕面における地域社会との共創に必要なものとは」と題して、箕面市船場東地区への移転を予定している大阪大学と箕面市との共創の可能性を探っていきます。パネリストは、大阪大学副理事であり、外国語学部教授でもある山根聡先生、大阪大学サステイナブル・キャンパスオフィス准教授の吉岡聡司先生、箕面市役所地域創造部副部長の岡本秀氏の3名で、司会は大阪大学社学共創本部特任助教の佐伯康考先生でした。パネルディスカッションはまず登録時に募った参加者の皆様からの質問に答えるという形でスタートしました。
まず初めの質問は「大阪大学と箕面市が混ざるには?」というものでした。これに対して、外国語学部教授の山根先生からは大学からの働きかけの例として、①大学が主催するイベントに加えて、②学生主体のイベントを開催することで、より地域と大学の密接な連携が可能になるのではないかという話がありました。サステイナブル・キャンパスオフィスの吉岡先生からは、別府の地域住民が留学生に温泉の入り方などを教えることによって交流を深めた例が出され、地域住民として、どのようにすれば学生、特に留学生との交流ができるのかについてお話がありました。最後に箕面市役所の岡本氏からは、既に2800名以上の外国籍の住民が居住し、「異なるものを受け入れる土壌」が整っているという箕面市の特徴が紹介されました。
次のテーマは「大阪大学箕面新キャンパスの将来的なビジョンは?」という問いかけでした。これに対して、岡本氏は3000人以上の学生は箕面の消費活動に大きく貢献することを挙げ、移転先の船場を大阪大学の卒業生が根付きたいと思うような魅力的な土地にすることで、将来的には箕面を世界に挑戦する人材を育成する場にしたいというビジョンを語ってくださいました。吉岡先生からは、箕面がこれまで製造業・運送業で栄えてきた歴史をもつという点から、現在の居住地域としての箕面に加えて、ビジネスエリアとしてのさらなる発展の可能性についてお話がありました。最後に、山根先生からは外国語学部が保有する70万冊もの書籍には非常に大きな学術的価値があり、世界各国の言語学者が箕面の地を訪れていることが述べられ、「言語学者にとっての箕面」がもつ意味の大きさが述べられました。
今回のセミナーでは3時間という長丁場にも関わらず、会場からは絶えず質問が出るなど、箕面市民の皆様の大阪大学キャンパス移転に対する関心の高さがうかがえました。今後もこのようなセミナーを通じて、地域との連携を深めていければと思いました。
(文責:21世紀懐徳堂学生スタッフ 浅川)