[イベントレポート]大阪大学社学共創連続セミナー 第一回「防災のある街へ 大阪府北部地震をふまえた北摂地域防災」

[イベントレポート]大阪大学社学共創連続セミナー 第一回「防災のある街へ 大阪府北部地震をふまえた北摂地域防災」

2018年9月1日(土)に開催された大阪大学社学共創連続セミナー第1回「防災のある街へ 大阪府北部地震をふまえた北摂地域防災」の開催レポートです。21世紀懐徳堂の学生スタッフ、平良が執筆しました。

9月1日は「防災の日」。この日に合わせて全国各地で防災にまつわる様々な意匠を凝らしたイベントが実施されていた。今年7月に起きた大阪府北部地震の記憶が新しい大阪大学では、社学共創連続セミナー第1回「防災のある街へ 大阪府北部地震をふまえた北摂地域防災」を開催し、防災のある街づくりへ向けて多様な切り口から様々な意見が交換された。

第一部では、大阪大学所属の3名の先生それぞれによる講演が行われた。第二部では、第一部の講演を受けて参加者から挙げられた質疑に対する先生方のコメントと、第一部登壇者にサスティナブルキャンパスオフィスの吉岡聡司准教授と、UR都市機構うめきた再生事務所島本健太所長が加わった面々によるパネルディスカッションが行われた。続く第三部では、この度の大阪府北部地震発生後被災者への支援活動を行った人間科学研究科の渥見公秀教授と学生らによる報告が行われた。

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永田靖教授による開会のことば

本セミナーを私なりに一言で振り返るならば、「災害における多様性と防災の多面性」という観点の獲得に収斂する。本セミナーは様々な面から見て防災のある街づくりへ向けた意欲的な試みであったと言えるが、本レポートでは主にこの関心に基づいて、時系列に順を追ってセミナーを振り返る。

第一部ではまず、理学研究科宇宙地球科学専攻の廣野哲朗准教授より「大阪府北部地震のメカニズム」と題して、大阪府周辺地域を中心として発生し得る地震のメカニズムや当該地域の断層の分布状況、およびこれらを踏まえた対策についての提言などがなされた。個人的に特に興味深かったのは、大阪府では巨大な地震を引き起こす可能性のある断層にごく近接した地域が宅地となっているケースが見られる、という点である。この点は、続いて講演した工学研究科建築工学コースの横田隆司教授による都市における地震のリスクについてのお話と併せて、防災がこうした街の設計段階から既に始まっているということを痛感する実例として捉えられた。横田教授は、豊中市制作のハザードマップなども用いて、地域ごとに微細に異なる防災の課題について各人が関心をもつ重要性を強調していたように感じた。都市設計のようなハード面からの防災に加え、3番目の講演にあたる国際教育交流センターの後藤厳寛特任准教授による講話には、今回の地震で多様な被災者への対応に迫られた避難所の実例について興味深いお話があった。しばし詳細に述べるならば、今回の地震の後、日本人とは異なった文化的背景・慣習(宗教的慣習など)をもつ留学生らが大勢集合した避難所があり、避難所のスタッフらはその対応に追われていたという。今後このような事態によりスムーズに対応するために、日頃からの大学と地域、公的機関、そして何より人と人どうしのコミュニケーションの重要性が強調されていた。

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〈左上〉理学研究科 廣野哲朗准教授

〈右上〉工学研究科 横田隆司教授

〈下〉国際教育交流センター 後藤厳寛特任准教授

第二部のパネルディスカッションでは、参加者全員に配布された質問票を通して第一部の登壇者に対して質問が投げかけられ、社学共創本部の佐伯康考特任助教のファシリテーションのもと、登壇者が詳細な回答を行った。非常に多くの質問が寄せられており参加者の関心の高さが伺えたとともに、それぞれに異なった防災意識を質疑という形で会場全員で共有できたこと自体、防災のある街づくりへの第一歩となったと感じた。質疑応答のほか、吉岡聡司准教授からのこれからの大阪大学と周辺地域との常時・非常時における関わりについてのコメントや、島本所長の「UR都市機構と防災まちづくり」と題したお話からは、多様化する現代において防災のあるまちづくりを行う上では、例えば行政機関のような一部の組織が必ずしも常に主導となるわけではなく、様々なセクターが相互に連携しつつ多様な状況を把握し対応していく「多頭型」のシステムづくりが肝要であるということが理解できた。また島本所長のお話の中で、大津波の危険性の高い和歌山県串本町がこの地方の特性に合わせた独自の取り組みを行っていることに言及していた点からは、こうした個別具体的な地域の取り組みに関する情報共有の重要性を伺うことができた。

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第二部パネルディスカッションの様子。

続けて第三部では、渥見公秀教授と学生らによる被災者支援活動に関する報告が行われ、直近の支援体験について非常に具体的な情報を知ることができた。避難所での多様なニーズに応える際の生々しい困難を感じることができたとともに、被災支援の際に時間の融通が効き、情報拡散を得意とする学生コミュニティがもつ可能性を感じることができた。

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〈上〉人間科学研究科 渥見公秀教授

〈下〉渥見教授と共に被災者の支援活動にあたった学生

「多様性」という言葉が現代の日常を象徴するひとつのキーワードになって久しい。より多くの人が十人十色のライフスタイルを選択できるようになりつつある一方、そうした「多様化する」社会や人々への対応・順応をめぐる問題は常にある。そしてそのような問題には、災害時の様な混沌とした非常事態の際でも、というよりも、そのようなときにこそより切実な形で答えを与えていく必要に迫られる。このような状況に対応するためには、常日頃から多面的なアプローチで防災に取り組んでいく必要がある。そのような意味でも、本セミナーは防災のある街づくりへ向けた参加者の多様な関心を満たすものであったと振り返るものである。

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セミナー終了後、会場出口にて参加者に無料配布された非常食。

(文責:21世紀懐徳堂学生スタッフ 平良)

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