[イベントレポート]大阪大学21世紀懐徳堂i-spot講座「ウルドゥー恋愛詩ガザルの世界」
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2017年7月28日に開催された、大阪大学21世紀懐徳堂i-spot講座「ウルドゥー恋愛詩ガザルの世界」の開催レポートです。21世紀懐徳堂の学生スタッフ、高倉が執筆しました。
ウルドゥー語がいったいどこで話されている言語か、知っていますか? パキスタンとインドの一部で話されている言語です。
ウルドゥー語の定型詩であり、恋愛をテーマとする「ガザル」は、古典時代から現代まで人気があります。今回の講座では、そのガザルを取り上げ、大阪大学大学院言語文化研究科教授の松村耕光先生に「ウルドゥー恋愛詩ガザルの世界」というテーマで講義していただきました。
まず、ガザルの形式上の特徴について松村先生から説明がありました。
二行(二半句)を一組として、違う内容の組が続きます。一組目は第一行、第二行の行末(第一、第二半句末)で韻を踏み、二組目以降は第二行の行末(下半句末)で韻を踏みます。作者の雅号を詩の中に入れるという特徴もあるそうです。
次に、ガザルの内容の特徴についての説明がありました。
ガザルで謳われる内容の特徴は、恋に狂い求愛する「求愛者」から、冷淡にも拒否する「愛する人」への一方的な激しい恋慕であるという点だ、と松村先生は話します。つまり、一途で苦しい、叶わない片思いということです。
この求愛は、「愛する人」の自分への無関心が何よりもつらく、無視するなら、せめて憎んでほしい、いっそ自分を苦しめて、殺そうとしてくれたほうが嬉しい、といった、ある種不気味の境地にまで至ります。こうした狂恋者のイメージは定型化されているとのことでした。そのイメージとは、以下のようなものです。
・狂気の季節である春に、荒野・砂漠をさまよい歩く
・その狂気ゆえに髪は乱れる
・苦しみで自分のシャツを自ら引き裂く
まさに「狂恋者」という言葉にふさわしいイメージです。
はじめ、「求愛者」の「愛しい人」への態度から、狂う、倒錯、歪み、屈折…等の言葉を思い浮かべていたのですが、聴講するうちに、そうした感情に至ることこそが、恋の真髄なのではないかと思いました。
また、「ガザル」の形式の特徴の一つには、「求愛者」にも「愛する人」にも両方ともに男性形が用いられるという特徴があります。これは、「世界は即ち神」という世界観の神秘主義の影響もあるのではないかと考えられるとのことでした。美しいものは神の美しさの顕われであり、人間の美しさを愛でる感情の究極は神への愛である。美しい人間に対する恋は「かりそめの恋」であるに過ぎず、「まことの恋」である神への恋の前段階だとされるそうです。
また、ガザルには、「大事なのは形ではなく心だ」という神秘主義的メッセージや、「理性では肝心なことは何も分からない」とする合理主義批判、「神はムスリムだけの神ではない」とするイスラーム中心主義批判などが見られ、さらには求愛者を「革命家」、愛する人を「革命」に擬え、「恋愛」に仮託して政治的メッセージを投げかける、恋愛詩にとどまらないガザルもあるそうです。
今回の講座を通して、恋や政治や宗教の根底に共通する、何ものにも替えがたい理想を求める崇高な信念、情熱を、ガザルという詩の形で感じることができました。
(文責:21世紀懐徳堂学生スタッフ 高倉)