[イベントレポート]2016年度前期i-spot講座「生物の体表模様:模様作りと模様の機能」。
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2016年8月31日(水)に開講された、2016年度後期i-spot講座の第4回「生物の体表模様:模様作りと模様の機能」の開講報告レポートです。
i-spot講座は、仕事帰りやちょっとした合間に知的気分転換していただける、気軽な雰囲気の公開講座です。2016年度前期は、「いろいろとつながる その2」「化ける・変わる・転じる」という2シリーズで開講しました。
第4回は、生命機能研究科の渡邉正勝准教授に「生物の体表には、どうやって模様ができるのか?」ということについてお話いただきました。
生物の模様の出来方は、「器官依存的」「細胞自律的」と分けることができます。
「器官依存的」な模様の出来方とは、パンダやクマノミのように、あらかじめ体の部位によって色が決定されている模様の出来方です。この方法では、遺伝子にあらかじめ「ここはこの色にしなさい」という命令が組み込まれていると考えられます。
それに対して「細胞自律的」とは、生物の皮膚の色を決める働きをしている色素細胞が相互に影響しあって、自律的に模様を作っていく方法です。ヒョウやシマウマの模様の作られ方が、これにあたります。
(写真:動物の模様の出来方について説明する渡邉先生)
「…とはいっても、説明だけではイメージしにくいですよね。実際に、皆さんにも模様作りを体験してもらおうと思います」と言って先生が配ったのが、この紙です。
(写真:マス目がひたすら並んでいる紙。)
「今からあるルールに基づいて、このマス目に1か0の数字を書いていきます。全てのマスを埋め終わったら、1のマスに好きな色を塗っていってください。」
先生に教えて貰った「あるルール」とは、①埋めたいマス目の左上・真上・右上の3つのマスにどんな順番で数字が並んでいるか確認する②該当する条件が見つかったら、埋めたいマス目に数字を入れる(例:111なら「0」、100なら「1」など)③最後の行までひたすら繰り返す、というもの。
黙々と数字を書き込み、さらに色を塗っていくと…なんとなく、模様が浮き上がってきました。
(写真:色塗りまで完成させたところ。)
「簡単に言うと、色素細胞はこうした独自ルールに基づいて、自分たちでお互いの居場所を決めることで模様を作っているんです。例えば今皆さんが描いた模様に似た模様はあさりの表面に見られますね(本当にこの法則で成り立っているかについては明らかではありませんが)。」
一見とても複雑に見える模様が、実は簡単なルールによって出来上がっているという事実に参加者の皆さんはびっくりしていました。
パターン形成の理論は、エニグマの解読で有名なAlan M Turing (1912-1954)が提唱しました。チューリングが発表したチューリングパターンと呼ばれる模様の作られ方には、「等間隔」「繰り返し構造」「自発的発生」という3つの特徴があり、多くの動物の体表にみられます。
体の色(体色)については、異性を惹きつけるための婚姻色、喧嘩の時に相手を威嚇するため、敵から隠れるカモフラージュ…など、いろいろな機能が知られています。
しかし一方で、「生物はなぜ“模様”を持っているのか?」ということについて、未だに明確な答えが定まっていません(たまたま偶然できてしまった、という可能性もあります)。最近では海外のグループによって「シマウマのしま模様は蚊に刺されにくくする機能がある!」という、ちょっと変わった説まで発表されているそうです。
最後の質疑応答コーナーでは、「今日のお話に関係する書籍を教えてください」と質問がありました。先生から紹介された本をこちらでも紹介します。
・「シマウマの縞、蝶の模様」8~9章 ショーン・B・キャロル著 光文社
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334961978
・「かたち」3~4章 フィリップ・ボール著 早川書房
・「波紋と螺旋とフィボナッチ」 近藤滋著 学研プラス
http://gakken-mesh.jp/book/detail/9784780908695.html
普段何気なくみている生物の模様の作られ方について知り、さらに実際に法則を用いて模様を描くことは新鮮な体験でした。また、一見全く違う柄に見えるもの同士が、実は同一の法則によって作られている場合があるということに驚きました。
会場の皆さまからは、「生物の模様が数式で表せるということにびっくりしました」「自分で模様を書くことができて興味深く楽しかったです」などの声が寄せられました。
(文責:21世紀懐徳堂 肥後)